帰り道



「あれ?蔵馬じゃないか!」

目を丸くして自分を指差している彼女を見て、蔵馬もまた目を丸くした。
そんな事は気にも止めず、彼女はポニーテールを軽やかに揺らして、蔵馬の元へと駆け寄った。
「こんな所で会うなんて奇遇だねェ。何やってんだい?」
「いや…それは俺の方が聞きたい位なんですけど?ぼたん。」
言われたぼたんは首を傾げる。言われた意図がわからない、といった感じだ。
そんな彼女に苦笑を漏らす。
「…ここが何処かはわかってる?」
「え?」
ぼたんはきょろきょろと辺りを見回した。
自分達がいるのはさして広くない道路の歩道。車通りは乏しく、歩道には学生がちらほらと帰路に
ついている。
これといって特に代わり映えのする物も見当たらず、ぼたんはう〜ん、と首を捻った。
「何処って、普通の道路にしか見えないけど…?」
「まぁ、そうなんですけどね。…ここ、俺の通学路。」
「え!そうだったのかい!?」
「知りませんでした?」
「全然。」
蔵馬の家からの道順を辿ればわかるものだが、如何せん、ぼたんはその道順を知らなかった。
家が何処にあるかは一応知ってはいたし、空から垣間見た事位はある。蔵馬の学校まで行った事もある。
けれどそれは幽助と螢子が通っている皿屋敷中学から直接行った事があるだけで、蔵馬の家
から通ってる高校までの道順までは知らなかった。
「そっか〜この道を毎日通ってるんだね。」
「…ところでぼたんはどうしてここに?それに、その格好…また指令か何かですか。」
言われたぼたんは、自分が身に付けているもの…セーラー服の裾を軽くつまみ、にこりと笑った。
「えへ☆今回はね〜螢子ちゃんと約束なんだ♪」
「約束?」
「うん、こっちの駅前に可愛いケーキ屋さんが出来たから、一緒に行こうって。」
「はぁ…。」
そういえば、新しいお店が出来、そこが今週いっぱい開店セールで安いだとか、装飾が可愛い
だとか、美味しいケーキと紅茶が〜とか、そんな話をクラスの女子達も話していたような気がする。
それで、皿屋敷の方からこちらの最寄り駅まで、この道を通ったのもわかる。が…
「それで、どうしてセーラー服なんです?」
たかがケーキを食べに行くだけに、セーラー服を着ている意味がわからない。
だがぼたんは自信満々に胸を張り、宣った。
「だって、女子中・高生の集う場所だし、やっぱり制服で学校帰りに寄り道という装いがいいかな
って思って。それに、こういうの憧れなんだよね〜vv
ますますわからない、といった表情の蔵馬を軽く睨み、ぼたんは頬をふくらました。
「いいじゃないか、こんな楽しみ方があったって。螢子ちゃんも学校帰りにそのまま来るし、
折角だからさ…。」
「ふうん…そんなもんですか。」
「そんなもんなの!」
「それで、どうして螢子ちゃんと一緒に向かわないんですか。」
学校帰りに直接行くのならば、一緒に行けば良いのに。と言う蔵馬にぼたんは、あははーと
笑い、手をぱたぱたと振った。
「いや、それがさー、なんか生徒会の仕事が急に入ったとかで、ちょっと時間かかりそうだから
先に行っててって。…学校帰り、友達と談笑しながら歩く図ってのも楽しめると思ったんだけど
なぁ…残念。」
いつもは指令や仕事ばかりで人間界に来るので、こういう時間を持てるのは希有な事だったの
だろう。笑いながらも心底残念そうに溜め息をついた彼女に、蔵馬は一つ、突発的に思い付いた
事を口にしてみた。
「じゃあ、螢子ちゃんが来るまでの間、俺と一緒に"学校帰り、談笑しながら歩く図"というのを
実行してみます?」
「…へ?」
確かに、お互い制服姿。蔵馬は丁度帰宅途中。
けれど、この図は"友達と歩く"というよりも…。
ぼたんが思うより早く、蔵馬はぼたんの手を取った。
「それとも、俺じゃ役不足かな?」
「えっ、そ、そんな事…」
「じゃあ行きましょうか。」
ぼたんの手を引き、歩き始めた蔵馬に、ぼたんは慌てて付いて行った。
帰路についている学生の何人もが、二人をじろじろと不躾に見てゆく。
蔵馬が人の目を惹き付ける事はわかっている。同じ高校の制服の子が周囲に何人もいるので、
きっと有名人であろう蔵馬と一緒にいる事は、余計に目立つだろう。その上この状況だ。
なんだかこそばゆく感じたぼたんは、蔵馬の顔をちらりと見遣るが、彼はさして気にした
様子もなく歩き続けている。
(気にして…ないのかな)
そんなぼたんの考えを知ってか知らないでか、蔵馬はまっすぐに前を見たまま、ぼそりと言った。
「…なる程。」
かろうじて耳に入ったその言葉に、ぼたんは疑問符を浮かべて蔵馬の顔を見た。
「いや、ぼたんがさっき言ってた言葉も、そうバカにできないな、と思って。」
「なんのこと?」
「こういう楽しみ方もいいなってこと。」
蔵馬の言っている意味がわからず、更に疑問符を浮かべる彼女に、蔵馬は満面の笑みを向けた。

「制服デートってのも、いいかもね。」

瞬時に顔を赤く染め上げ、ぼたんは繋がれていた手を振りほどく。
先程自分が思ってても口に出さず…いや、出せずにいた言葉を、この男はぬけぬけと…
しかも、デートって!デートって!!
別に自分達はそういう関係でもなければ、そういう話をした事もない。
どうしてそこで、こんな状況で、さも当たり前の様にそんな言い方をするのか。
思う事をうまく言えず、ぼたんは口をぱくぱくとさせた。
一方の蔵馬はというと、その様子を面白そうに眺めているだけで、ぼたんは悔しくなってきた。
「どうせアンタの事だから、言い寄る女の子は沢山いるんだろう?制服デートなんて、
そういう子といくらでも出来るじゃないか!」
その言葉に、ああそんなこと、と蔵馬は、これまた満面の笑みで返す。

「でも俺がデートしたいと思うのはぼたんだけだし。」

その言葉を聞いてたっぷり5秒後、ぼたんの顔は首まで真っ赤に染まったのだった。


*  *  *  *  *

1時間後、生徒会の仕事が無事終わり、ケーキ屋に着いた螢子は、終始落ち着かない
ぼたんに執拗な尋問を行い、その迫力にぼたんは口を割らざるを得なかったという。

蔵馬はといえば、翌日学校にて、何人もの生徒の目撃証言からなる
『前日の帰宅途中に南野が中学生の彼女を連れて歩いていた!』
という噂について、質問攻めになったそうな。





ししまるるな様から頂きました!

私がるな様のサイトにて5600番を幸運にも踏み、キリリクで蔵ぼ小説をお願いしたところ
こんなに素敵な蔵ぼ小説を書いて下さいました〜vvv
私は"蔵ぼ"という以外に、どんな内容のものをリクエストするかは書いていなかったのですが
私の設定なんて書かなくて良かった〜vと、こちらの小説を拝見した時に思いました☆
蔵ぼの制服デートいいなぁvv 学校帰り制服で寄り道っていうのに憧れているぼたんちゃんが可愛い!!
それにしても、蔵馬さん最強すぎます(笑) 
突然"デート"なんて言っちゃたり、告白みたいなものをしちゃったり!
蔵馬って、ぼたんがそういうコト言われてどんな反応するのか楽しんでそう。
螢子ちゃんもさすが!(笑)彼女の手にかかったら、ぼたんも口を割らざるを得ないよなぁ、なんて(^o^)

るなさん、素敵な蔵ぼ小説を書いてくださって本当にありがとうございました!!


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